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「カルタグラ~ツキ狂イノ病~《REBIRTH FHD SIZE EDITION》」ネタバレ控えめ紹介+小感想

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カルタグラ~ツキ狂イノ病~』
カルタグラ~ツキ狂イノ病~《REBIRTH FHD SIZE EDITION》』

「そもそもどんなゲーム?」という人は、まず公式サイトでストーリーとか見てください。ただでさえエロゲなのにグロ要素もあるので注意してほしいのと、リメイク作品ということで「2005年版(旧版)の部分的なネタバレ」「リメイクの前後を比較する、本筋に触れない控えめのネタバレ」を含みます。

逆に言うと「どの辺りが変わっているのか」は必要以上のネタバレをしない程度(のつもり)で紹介しているので、購入判断を迷っている人が見たとき、後押しになれば良いな……。でも本音は「初見の新鮮なプレイ感覚・フィーリングを損なったり、余計なネタバレを踏む前に今すぐプレイして(懇願)」です。

「カラノショウジョ」シリーズ未プレイ*1なのと、エロゲ自体も5年以上ブランクがあるので、間違いなどがあればコメントでツッコミ入れてもらえると助かります。

グラフィック

「FHD SIZE(Full HD)」という名前の通り、800x600(4:3) => 1920x1080(16:9) 画面比率の変更も伴う高画質化が行われています。それも「当時の素材から再制作された高画質版」などではなく、リメイクです。

(比較用にPC閲覧前提の横並びにしているので、スマホで見るときは画像だけ拡大してください)

旧版⇒新生。旧版の立ち絵を今になってから見ると、目がやや四角くて大きい、「2005年当時の流行に影響されている絵柄*2という印象は少なからず受けるのではないでしょうか。「こっちの方が/こっちもこっちで好き」という声もあると思いますが*3「古臭い」と言われても仕方ない気がします。

対して新生では、目の大きさで画風の変化は顕著に感じられるものの、色使い、ハイライトと陰影の付け方の「塗りの質感、受ける印象」はそのまま。元の良さを残しつつ、2023年のゲームとして相応しい絵になっていると思います。

ガリ気味だった耳が丸みを帯びていたり、立ち絵の新規差分(たぶん)、背景の描き直し(画面右側の絵画、額縁から違う)といった、並べて見比べないと気付かないような細かな変化もあります。

後でもう少し詳しく紹介しますが、ウィンドウの模様、ストーリー中の日付の表示など、画面のデザイン全体も旧版の再現を試みており、こだわりが感じられます。

スチルで見る変化も細かいです。

・「ワ」のように細長く開いていた口が、「ワ」ぐらいの横に伸びた自然な開き方に
・服のシワが、部位によっては元々の線が残らないぐらいの描き直しに
・髪の毛の描き込みと塗り分けを増やして、柔らかい感じに

ただし、グロ・リョナも強化されています。描き込み量を増やしてリアルにするどころか、黒塗りだったものを描き直したり、これ系の新規イベント&スチルまで増えています。既にブランドイメージ・評判を確立しているイノグレ作品を事前情報ゼロで購入してしまう、「地雷」になることはないと思いますが……やめてくれよ……つらいものは何度見てもつらいよ……

シナリオ

「一部キャラ個別の新エンディング」が追加されました。旧版では死亡を一切回避できなかったキャラがいるので、旧版プレイヤーは「あのキャラが生きてる!」という感動を一層深く味わえるでしょう。

「和み匣」収録のサクラメント~月ノ視ル夢~」も本編扱いで収録され、サクラメントになかった新エンディング」も更に増えています。内容について(今回は)詳しく言及しませんが、こちらも旧版プレイヤーには感慨深いものがあります。

……ネタバレしないようにすると話せることが少ないので、この先愚痴っぽくなることはご容赦ください。

新エンドとサクラメントの追加に伴い、旧版の当時から複雑だった分岐は、更に複雑化しています。元々、一部の選択肢が後々まで影響を現さない難解なフラグ管理をしていたり、トゥルーエンド(新生の「グランドエピローグ」)がルートロックされていたり*4しました。

 

新生では、新エンド用の選択肢が追加されたのは当然として「フラグ回収に成功していると、グランドエピローグで終了せず、サクラメントへ進む(⇒無条件では進めない)」「雪椿:和菜ルート、白詰草:由良ルートが、事前に回収したフラグで決定(⇒ルートを選んで開始する旧サクラメント*5とは異なる)」という分岐になっています。「カルタグラサクラメント」が一本のゲームとして遊べるようになったのに、ルート分岐の方を面倒にしないでほしかった。フラグになっているであろう選択肢はおおむね「主人公の心の中の和菜と由良の割合」と解釈できる、とはいえ……。

なお、分岐の複雑さ自体は変わりませんが、「前選択肢までジャンプ(巻き戻し)」の新機能で、選択肢の総当たりは当時よりも簡単です。「難易度が高い」と表現するのは、微妙に違う気がする。

それから、新エンドが追加された以外の大筋の変化はありません。「ミステリーというよりはサスペンス」とも評される謎解き要素の薄さ、ストーリー上の活躍で毀誉褒貶のあるキャラ(思いつく例:主人公、七七、八木沼)もいますが、その辺りのフォローはありません。まあ、多少ヘイトを買っても「このキャラはこうだからいい」と言ってくれるファンの方を大事にするのは正しい判断だと思いますし、そういう方向のリメイクを期待していた人もいないよね……。

サウンド

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新生では新オープニング曲「孤独の海」が流れます。「メインヒロイン」は和菜だけど、「妄執と狂気に至る愛」というキャッチコピーを体現する「中心人物」は由良だと再認識できる、新生だからこその少し変化球な構成が刺さります。

とはいえ、カルタグラのテーマ曲は「恋獄」じゃなきゃヤダー!と思っている、そこのお前……いや、俺!大丈夫、新生でも流れるよ!あと「恋獄」が好きな人ほど「孤独の海」はフル版を聴こうね!!

オープニング以外のBGMも、新曲の収録、全曲の再収録が行われています。ハイレゾ配信を前提にした制作で、シンプルなギターソロの「雪割草」・ピアノソロの「レンゴク」は、ゲーム内のミュージックモードで聴き比べるだけでも、音の深みの違いがハッキリと分かります。

新エンドの追加に伴い、一部キャストの新規収録も行われています。旧版の発売から18年、その年に生まれた子供でも新生が遊べるほどの年月が経過していますが、キャストのほとんどがイノグレ作品と長い付き合いをしていることもあって、演技・声質の衰えは感じさせません。

旧版では「とあるイベント限定のパートボイス」だった主人公(高城秋五)も新生ではフルボイス、「サクラメント」「カラノショウジョ(HD)」とも統一感のある仕様になり、「登場人物」としての存在感が増しました。

ただし(個別オフできるとはいえ)主人公ボイスの宿命として「主人公=自分、という没入感を損なう」「Hシーンで男の喘ぎ声も聞こえる」ことに加えて、本作では「(エロゲ主人公なのを考慮しても)流されやすく浮気性」「ミステリー作品の主人公とは思えない活躍」というややダメ人間の部類なので、人によってはあまり嬉しくないかもしれません。「誰得」とまで言われるようなものではないですが。

システム

グラフィック・シナリオ・サウンドという作品そのものの構成要素ではありませんが、システム/UIも、業界最高水準の快適さです。プログラム制作は株式会社プロトタイプPSPが現行機だった時代からADVの家庭機移植を数多く手がけ、イノグレ作品では「FLOWERS」、有名どころでは「Keyブランドのほぼ全て(Kanon, AIR, CLANNAD, etc...)」の実績があります。

これが操作マニュアル。ADVの割には多めのキーボードショートカット、特に「選択肢へジャンプ」「クイックロード&セーブ」という多用する機能がアサインされているのは非常に便利です。

マウスも多ボタンやジェスチャで操作の拡張が可能、更にタッチパネルにも対応。こちらもジャンプ機能のアサインあり。

「選択肢へのジャンプ」は「スキップ」よりも早い、文字通り一瞬のジャンプで、分岐の複雑な本作では非常に有効です*6。ジャンプした間のバックログも記録されており、メッセージ戻し、バックログから更に特定メッセージへのジャンプと、縦横無尽な移動が可能です。

ギャラリーの設計も優秀で、マニュアルを見ての通り「マウスジェスチャでページの切替」「キーボードショートカットでギャラリーの切替」と大部分の代替コマンドがあり、ほぼ自分好みの操作が可能。旧版ではページ切替も「ページ番号を決めてクリックする」以外できなかったことを考えると、大幅に強化されています*7

先の立ち絵とあわせて「画面デザインの再現」について触れましたが、バックログ、ギャラリーといった些細な画面でも、可能な限り元のデザインを再現しており、雰囲気は抜群です。

ただ、リプレイ機能の貧弱さだけが惜しまれます。「Hシーン」「OPムービー」は問題ないのですが「チャプター単位」「EDムービー」はリプレイできない。前者はフラグ管理の複雑さ故に仕方ないとして、後者はEDムービーに挿入されるスチルがCGギャラリーに登録される*8という、欲しいものと微妙に違う仕様で「なんでここだけそんな気が利かないの?」というのが正直な感想。

幸いセーブ枠は余裕の200あるので、見たいシーン・エンディング用のセーブデータはガンガン作っておきましょう。

最後に

作り込みが生半可ではなく、「REBIRTH/新生」と名付けられたのは伊達ではないと思います。特に旧版プレイヤーは懐かしさと共に、新エンディングへ到達した時の興奮・感動も味わえる。旧版を必修科目にしてから遊んでほしい、と思わず言ってしまいたくなる出来です。

……とは思いつつ。グロ要素と複雑なルート分岐まで旧版から強化されるという少々困ったポイントもあるので、今から遊ぶなら新生だけで十分ではないか?という気もします。

グラフィック・シナリオ・サウンド全ての評判が高く、18年越しにリメイクされた作品。優秀なシステムも加わった「2023年のゲーム」として、一人でも多くの人が触れてくれたら、とても嬉しいです。

それから――「彼女」には「おかえり」の言葉を贈りたいですね。

エロゲで見せていい顔の良さじゃない。

*1:「天ノ少女の発売決定」と聞いてから3作揃えてHD版をお布施で買って積んでたので、これをきっかけに今年中には遊びます

*2:同じ2005年のエロゲの代表作と言ったら、たぶん「Fate/hollow ataraxia」「School Days」「夜明け前より瑠璃色な」あたりになるはず

*3:私も7:3でアリですが、新生の存在は無視できない

*4:新生でもたぶん同じ?「旧ノーマルエンド/新生エピローグ」を一度見ないと、「旧トゥルーエンド/新生グランドエピローグ」に行ける選択肢が出現しない。

*5:2周目以降

*6:ジャンプ中に未読テキストが出現した場合は止まります

*7:2005年当時では一般的な仕様なので、流石に比較対象が悪い気もする

*8:これはこれで嬉しいけれど……